小さな街があった。
名前すら、記憶したことのないほどの、小さな街だった。当然、闘技場もなければ、城もない。
どうしてこんな辺鄙なところに寄ったかといえば、単純明快。夜になってきたからだ。
俺は野宿も厭わないし、夜の闇も動物も人間も怖くはないが、せっかく近くにふかふかのベッドがあるなら利用しない手はない。俺だって、できるなら夜くらい、ゆっくりしたい。そして、俺には闘技場で儲けた金が手元にある。
門にゆっくりと近づく。意外にも、門番が5人も立っていた。小さな街にしてはどうにも仰々しい感じがする。
「通行証の提示を」
門番の一人に、無表情で言われる。俺は、この国で発行されている通行証というか、身分証を提示する。本名、整理番号、出身地、さらに国のハンコがついただけの、シンプルなものだ。これは、だいたいどこの街へ行っても提示を求められる。当然、闘技場にエントリーするときもである。
門番はそれを見て、ぼそっと俺の出身地を呟く。特にそれに意味はなさそうだった。しかし、ちょっと考え込むような表情を見せる。
俺は不審に思い、聞いてみることにした。
「俺の出身地、おかしいかい」
門番は、はっとあわてたように言った。
「そういうことでは。・・・ただ、ここからだと、随分遠いみたいですね」
「そうだな。もう、ずっと旅ばかりしていて、ろくに帰ってもいない」
「ふむ・・・そうですか・・・」
また、考え込んだ。
「何かあったのかい」
「何か、というか・・・」
若干、言葉を濁しつつ答える。
「何か、というわけではないのですが、こんな名前の街を知っていますか」
そう言って門番は、俺の知らない地名を口にした。
「いや・・・」
「城まである立派な大きな街らしいのですが」
「知らないが・・・いや・・・え、城だって?」
城なんて、この国では国王のおわす首都にしかないはずではないか。そんなこと、門番のこいつも当然知っているはずだ。
しかし気になったのは、そのワードをごくごく最近聞いた覚えがあるということだ。
『城から来た』
今日の昼に会ったあいつは、たしかそんなことを言っていた。
「城なんて、首都にしかない。あんただって知ってるだろう」
「はい、当然です」
門番は頷く。
「ただ、城のある、そういう名前の街から来たと言い張る男がいましてね」
俺に、微妙な予感が湧いてきた。
「詳しく聞きたいんだがいいかい」
「はい。つい、30分ほど前のことです。見知らぬ男がこの街に入ってあなた同様、通行証の提示をお願いしたんです。するとその男は通行証を持っていなくて、出身地を聞いたら知らない地名。整理番号を聞いてもよくわからないと言われ、怪しいのでいま簡易牢屋に押し込めているんですが・・・」
俺は、珍しく、しかもなんでかあまり理由もわからなかったが、めまいがした。
門番に、その牢屋に行ってみてもいいか尋ねると、いいと言われたので行ってみた。
「おや、あなたは・・・。また、会いましたね」
予想通り、へらへらと笑う、優男の顔があった。

こうして俺たちは、再会を果たした。





特に意味もなく、短い一話ですね。書いたので、載せてみます。
気づけば二年以上たっていました・・・

実はここからが始まりです笑

-2013 02 022 アザナ-




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