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「じゃあな」 俺は、実に簡潔で率直な言葉をかけた。 「え・・・まさか、やだなぁ。僕のこと、お忘れなんですか?」 「忘れるか!!」 このなよなよ自称強力魔導師に初めて出会ったとき、子猿に怯える姿を尻目に、俺はその場を去った。それが半日前。しかも、己の魔導の素質についての議論で少々険悪にもなりかけた。それを覚えてないのかと言われるのは心外なわけで、まるで俺を記憶障害かのような扱いをしていることになるこの男。 ふつふつと、また苛立ちが俺を支配するのだった。 「お前の名前はナッツで、自称、あくまで、自称! 最強の魔導師。だ。そして、小猿に腰を抜かしてへらへら笑う軟弱野郎だ。だろう?」 「ふふふ、全問正解です。嬉しいなあ」 ナッツは端正な顔をふやけた笑顔で崩す。くそ。どうにもやはり、コイツは苦手でならん。 「お前・・・それでも魔導師か? もっと、堂々としていろ。お前みたいなフニャ男が最強魔導師なんて名のられる日には、魔導師の沽券に関わる」 そこでナッツは、やはりムッとする。 「僕は自分の魔導に誇りを持っています。前にも言いましたが、魔導に関する侮辱は受け入れられませんね」 「わかった。わーかった。じゃあ・・・」 俺は、いらだちを努力して努力して抑えながらゆっくりと言った。 「なんでお前はこんなところでおとなしく捕まっているんだ。すっげえ魔導師なんだろう。こんなとこ、さっさとぶっ壊して出りゃいいじゃねぇか」 「まったく、あなたは野蛮だ」 ナッツは、くすくす笑う。 「前にも言いましたが、魔導の力は争うために使うものではない」 「はあそうですかい」 言い分は、納得はできないが理解した。全く、魔導師らしくないやつだ。 魔導の力は、そう珍しいものではなく、一般的に誰でも使うことができる。ただ、その大きさには個人差があり、うまく使える者、下手な者、力の強いもの、弱いものがいるだけだ。俺はたまたま、持って生まれた魔力が大きくて、使い方を練習しただけのことだ。 だが、と俺は思う。 皆が使えるということは、すなわち幼い頃よりその力の比べ合いがあり、また魔力の大小がそのまま集団の力、発言力の大小となる。皆、平和を歌いながらスポーツによって優越を競い、力を比べ、強いものがもてはやされるように、魔導の力を使う。それは必ずしも悪いことではなく、魔力を極める努力は賞賛され、勝ちも負けもまたそれぞれ意味のあるものと解釈される。それが当たり前のことである。スポーツの強さ、料理の腕前、裁縫の美しさ、それらと同じなのだ。それぞれ個性はあるが、自然と他人と比較し、努力し磨くものが魔導なのである。 当たり前の考え方。 皆が使える力故に特別視されずに努力し磨く対象。 それなのに。 目の前の魔道師は、その力を競うことに使おうとしない。 争いごとが苦手と言ってしまえばそれだけなのだが、その、あまりにも自分の生きてきた世界観と違う目の前の自称強力な魔導師の考え方に、俺は違和感を覚えた。 「なあお前」 「私ですか」 「他に誰がいるよ」 「ふふふ、そうですね」 「一つ訊きたい」 「なんでしょう」 「お前の国に、スポーツはあるのかい?」 きょとん、とするナッツ。 「当然です。年に一度、国民全員から選別されたスポーツの上手い人たちが集まり、スポーツの祭典を行いますよ」 「・・・そうか」 俺は、ふむと考える。 「他にも訊いていいだろうか」 「一つ、ではないのですか。ふふふ構いませんよ」 「お前の国に・・・」 「うわああああああ」 突如。村の門のあたりから、悲鳴があがった。 「・・・何かあったのでしょうか」 ナッツが、端正な細身の顔を曇らせる。 「わからん。ちょっと様子を見てくる・・・」 「た、助けて下さ・・・」 さっき門で俺の通行証を確認した門番が、俺の方に駆け寄ってきた。 「どうしたんだ」 「助けて下さい。村に入ってきたモンスターが、暴れて・・・」 息も絶え絶えに言う。 「そうか。手伝おう」 俺は、牢屋をあとにしようとして、ふと思い立った。 「ナッツ」 「あ・・・はい」 どこか、白い顔をしてナッツが答える。 「お前の魔導の力、役にたつことに使えそうだぞ。ここで恩を売れば、そこから出してもらえるかもしれん。来い!」 「あ、いや、私は・・・いま、ここから出ることもできませんし・・・」 へらへら言葉に、俺の苛立ちがぐんぐんと募る。 「おい、門番」 「は、はい!」 「そいつ、凄まじい力をもった魔導師らしいぜ。出してやって、モンスター退治を手伝わせたいんだ。いいかい?」 「いやあそれは・・・」 「お願いします。もう、誰でも構いません。是非、出て下さい! そして、どうか・・・どうか村を・・・」 「え・・・」 ナッツは、白い顔を今度は青くする。 理由の分からない俺は、訝しがりながらも、ガシャンとカギの開く音を聞いた。 「行くぞ、優男」 「ひいいぃぃ」 聞いたことのないような薄くて高い叫び声を引きずりながら、俺は建物を出たのだった。 久々のMMSです。 果たして物語は進んでいるのか!?笑 -2014 12 23 アザナ- |