「小さなおとぎ話」


ろうそく売りをしている通りがありました。
ろうそくの小売店が軒をつらねて、若い人が主にろうそくを売っていました。
中には、とても派手なものもあります。
半身が入るくらいの小屋をろうそくで作り、そこに上半身を入れて、一曲歌って踊る間にちょうどそのろうそくも燃え尽きる。
そんな人目を惹くショーを至る所で見ることができる通りでした。

一人の女の子が、一人のお兄さんとお師匠とで小さなろうそく屋を営んでいました。
同じ通りにあるように、派手な仕掛けはできないけれど。
燃えているうちに、ろうそくの形が途中でポロッと変わって、かわいいお花の形になってしまう、という小さい子供向けのかわいいろうそくがおいてありました。

三人は呑気に商売をしていましたが、ある日女の子が思い立って近くのおばあさんのところへ行きました。
「ねぇ、おばあさん。人形劇をやってみませんか」
そのおばあさんは、人形を棒の先につけ、それを動かして劇をつくるおばあさんでした。
昔は頻繁に劇をやっていたようなのですが、女の子が物心つくころには引退してしまっていて、女の子はまだ見たことがありません。
なので、思い切ってろうそく屋の見世小屋での上演をお願いしてみたのです。
おばあさんは、やさしく笑ってやって来てくれました。

人形劇はとても素敵で、不思議なものでした。
おばあさんがサッと人形を動かすと、表情や仕草が変わり、まるで生きているかのようにくるくる移りかわっていくのです。
女の子のお店のろうそくも使われました。
お姫様の後ろで普通のろうそくがお花に変わると、見ていた人たちは拍手をくれました。

それからは忙しい日々になりました。
お店の三人におばあさんも加わって、お菓子やカードを配って子供たちを集め、劇をやったり、ろうそくを売ったりして毎日過ぎていきました。
子供たちにお菓子をあげると、お菓子のお返しをくれるので、皆でよくお菓子を食べていました。

いやなこともありました。
おとなりのお店は駄菓子屋さんで、子供相手には優しい商売をするのに、大人が買いに行くといやなことをするのです。
女の子のお兄さんが子供たちに配るお菓子やカードを買いに行き、思ったより安い値札が付いているのに驚いてレジに出しました。
しかし、おじさんが要求してきた値段は明らかに値札の合計より高いものだったのです。
それにお兄さんが文句を言うと、おじさんは値を下げてくれました。
お兄さんはその代金を払って買って帰ったのですが、よく計算してみると、その下げられた値さえも、全ての合計より高いものだったのです。
お兄さんがもう一度抗議しに行っても、
「あんたはその値で買ったんだから」
と、取り合ってくれません。
腹を立てたお兄さんは、レジの横に置いてあったカゴいっぱいの小さなお菓子を片手で持てるだけ掴むと、そのお店を出て行きました。
「二度と来るな」
そんな声が聞こえ、二つのお店の仲は決定的に悪くなりました。

相変わらず、お店は忙しいままでした。
たくさんのお菓子やカード、シールを並べたり、来月の予定を組んだり。
お菓子を沢山仕入れることが忙しくて、
いつの間にか、人形劇をやらなくなっていました。

悲しいことがおこりました。
お菓子を食べ過ぎたのが良くなかったに違いありません。お師匠が入院することになったのです。
「俺、入院するから」
アッサリ言ってのけて、女の子たちが何か贈り物をすると言っても、
「いいよ、そんなの」
と言って受け取らずに行ってしまいました。
まあ、あの性格なら大丈夫だろうと、女の子もお兄さんも安心して送り出しました。

変わらない日々が続きました。
女の子とお兄さんと買い物をしに大きなおもちゃの量販店に行ったりすると、
「このパズル、子供向けじゃないけどカッコイイ」
なんて、夜桜のパズルを見ながらはしゃぐことなんかもありました。
おばあさんは、穏やかに笑って店番することが多くなりました。

何週間か、何ヶ月か過ぎました。
ある日のことです。驚いたことに、おとなりの意地の悪いおじさんが、女の子のお店のお菓子を、駄菓子屋のカゴに次々と放り込んでいくのです。
女の子は止めようとしましたが、お兄さんが昔、自分がやったこともあってか、
「放っておけ」
それだけ言って、横目でずっとおじさんを追いかけていました。
「仕返しだろう」
小さな声で呟きました。

やがて、カゴがいっぱいになると、おじさんは出て行きました。
女の子は気になって、少しだけ追いかけると、どうしたことでしょう。入院したはずのお師匠がそこにいるのです。
おじさんは、お師匠の前にお菓子でいっぱいのカゴを置くと、そこを去って行きました。

お師匠は辛そうな顔をしながらお菓子の袋をあけると、むさぼるように食べ始めました。
一瞬、驚いて動けなかった女の子が、ハッとして近寄ると、お師匠は、
「我慢できないんだよ〜」
と情けない声を出しました。

パシッ・・・

女の子はお師匠のほっぺたを平手打ちしました。
「もっと素敵な人だと思った」
言い放って、踵を返して、でも去ることができなくて。
もう一度、お師匠の方を向いて、しがみ付いて泣き出しました。


お兄さんが、いつの間にか近くにいました。
大きな声で言いました。

「もう一度、人形劇をやろうよ」

二人でセットになった、お師匠と女の子を引っ張ってお兄さんはお店に戻りました。
おばあさんはちょっとだけ驚きましたが、すぐに準備を始めました。
「原点は、人形劇なんだよな」
お兄さんが、そっと呟きました。


魔法のように動く人形たち。魔法のように優しく、不思議な劇。
人形たちの後ろで燃えるろうそくが、魔法のようにかわいいお花に変わりました。



 おしまい☆






これを夢で見る私の右脳凄くないですか!?
目覚めたときちょっと涙ぐんでました。てかどんだけメルヘンなんだ。
脳みそ多分カリフラワーかなんかで出来てるんだと思います私。
ちなみにこのお師匠さんはモデルがいまして、
夢を見た当時、糖尿病がヤバくて入院が近かった私の実際の恩師です。
それまでもネタにしてしまう、この右脳。
ちょっとだけ大切にしてやろうかと思いました。
-2010 03 20 アザナ-




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